コルドバ(スペイン) – WORLD LIGHTING DISCOVERY

イスラム文化が色濃く残る花の都

コルドバは、スペイン・アンダルシア州にある人口35万人程の地方古都です。グアダルキビール川が流れているこの場所は、かつては後ウマイヤ朝の首都として繁栄していました。10世紀には最盛期を迎え、西方イスラム文化の中心地として、世界最大の人口を持つ程の大きさになったと言われています。

その後は内紛や分裂を重ね、13世紀にキリスト教国に併合されました。しかし、当時の人々は、その残されたイスラム建築物の美しさを見て、自分たちでは作れない素晴らしい文化として認め、異なる文化が混在する特異な街となりました。

また、コルドバには迷路のように入り組んだ旧ユダヤ人街があり、多くの花の鉢が飾られた白壁の家が並んでいることでも有名です。これらは、1994年にコルドバ歴史地区として世界遺産に登録され、今もその不思議な魅力で多くの観光客を魅了しています。

旧ユダヤ人街に続く花の鉢

 

異なる宗教建築が融合したメスキータ

メスキータという言葉は、スペイン語で「モスク」を意味し、元々はアラビアの言葉から生まれたと言われています。

ここコルドバにあるメスキータは、Catedral de Santa Maria de Córdoba(コルドバの聖マリア大聖堂)のことを指しており、イスラム教のモスクなのにキリスト教の大聖堂を意味する少し不思議な建築です。

実は、このメスキータは785年にイスラム教のモスクとして建設されたのですが、13世紀頃にカトリック教徒が実権を握ってからは、中に礼拝堂や聖堂が新設されて、カトリック教会堂として転用されます。16世紀には、修復の過程でさらにルネサンス様式が付け加えられるような形で増築が施されました。

つまり、ひとつの建築にイスラム教文化とキリスト教文化が混在する、世界的にも唯一無二の不思議な建造物として現代に引き継がれています。


特に、建物の中で目をひくのがメスキータの「円柱の森」です。

赤煉瓦と石で交互に積まれた二重構造のアーチは、856本もの円柱により構成されており(キリスト教会への改築時は1012本)、それはまるで無限に広がっているかのようです。

アーチとアーチの間の天井はエリアによって装飾が異なっていて、そこに備え付けられている照明器具もそれぞれ違いました。上から吊り下げられたペンダントライトや、天井装飾のテクスチャを強調するスポットライトなど、上方配光のものが中心でした。もちろん、10世紀には電気などありませんので、実際には蝋燭やたいまつの炎によって下からほのかに照らされていたと想像します。

窓は、建物のスケールに対してあまり多くない印象です。室内へと入ってくる自然光が限られるため、室内全体の明るさも抑えられています。窓から差し込む光は拡散した柔らかい光ではなく、暑く乾燥した日が多いアンダルシア地方特有の、強くギラついた光が直接室内へと差し込みます。

そうしたこともあり、床や壁には幾何学模様の窓の装飾の影や、ステンドグラスと透過した色のついた光などがより強くはっきりと現れ、それが空間のアクセントのひとつとなっていました。


幾何学模様で描かれるステンドグラス

  

床の石板を色に染まった光が照らす

ステンドグラスはイスラム建築らしく、美しい幾何学模様で描かれています。

アラベスクと呼ばれる「幾何学模様」といった表現は、人物を描く偶像崇拝を禁ずるイスラム教の考えに基づいています。可視的物質世界を超えて、無限に広がるように描かれるアラベスクは、モスクなどのイスラム建築でよく見ることが出来ます。円柱の森で見た無限に広がるような空間の世界観というのも、ひとつの表現なのかもしれません。

もちろん、今はキリスト教会であるため、十字架のキリストや天使などの像、大聖堂などもあります。本来であれば、キリスト教徒にいつ壊されてもおかしくなかったメスキータですが、実際にその美しさを見れば、1000年以上経った今も保存され続けてきた事実は、納得のいくものでした。

世界的に大きな2つの宗教であるキリスト教とイスラム教。しかし、その全く異なる宗教がひとつの空間に存在しているのは、本当に不思議なことであり、歴史的価値が非常に高いものであるということは疑う余地もありません。



穏やかな川の流れに映りこむ夜のコルドバ

このコルドバ南部の歴史地区には、グアダルキビール川が流れています。この川沿いにはメスキータやアルカサルがあり、川にはローマ時代に建設されたローマ橋など、数々の遺跡が立ち並んでおり、多くの観光客が行き交っています。

私が訪れた時の川の流れが緩かったせいか、川の水面はまるで鏡のように空の様子をそのまま映し出していました。陽が暮れ、メスキータなどの遺跡群もライトアップによって色付き始めます。建物のライトアップには、色温度3000K付近の暖かい色の光が使われており、歴史地区の街全体が統一された色で浮かび上がっていました。

穏やかな流れのグアダルキビール川

 

夕暮れ時には幻想的な世界が浮かび上がる

ローマ橋の光がメスキータへとつながっていく

 

ローマ橋の上には連続した行燈が置かれる
コルドバのランドマークであるメスキータ(聖マリア大聖堂)

 

メスキータの外壁は、離れた位置からの照射でぼんやりと浮かび上がる

橋も照明器具との距離が取られ、柔らかい光の印象に

 

街のあかりもメスキータの外壁へほんのり広がる

街のシンボルとなるような建物は、照明器具と建物との距離が保たれ、柔らかい光で浮かび上がっていました。見る角度によっては、器具からの光が直接見えてしまうような配置だったりするので、もう少しグレアのコントロールの工夫が必要かと思われますが、全体的に光のイメージが統一されていました。

通りに入ると、建物の壁に直接設置された街灯の光が賑わいを作り出していました。メスキータの外壁を直接的に照らしているわけではありませんが、色温度は周囲と統一されており、周辺の街のあかりもメスキータの外壁をほのかに照らすような役割を果たしています。


ローマ橋近くの街灯は下方配光のみ

 

川沿いに広がるサイクリングロードの光も周辺環境に配慮されている

歴史地区に設置されたポール灯は、上方への光が全てカットされており、下方向に床面照度を重視したデザインのものがほとんどでした。コルドバの夜の情緒あふれる風景を街灯の光が邪魔しないように、都市計画の中でしっかりとコントロールしようとする姿勢を伺うことができますね。