マーストリヒト(オランダ) – WORLD LIGHTING DISCOVERY

クリスマスの装飾でカラフルに彩られた国境の街

マーストリヒトは、マース川沿いに位置するオランダ最古の都市です。オランダ最南端のリンブルグ州の州都で、ベルギーやドイツの国境に接しており、郊外にはオランダには珍しい田園の丘陵地帯が広がります。過去にはフランスやスペインからの支配を受けており、オランダ西部の都市と雰囲気も街を歩く人もなんとなく異なっています。その歴史は古く、紀元前からケルト人が造った町として存在していた記録が残っています。様々な時代を経て、1815年のオランダの建国に伴ってその一部として帰属し、現在に至ります。

私が訪れたのは、ちょうどクリスマスシーズンの12月。夜の時間が最も長い時期です。しかし、マーストリヒト市内は、そんな暗さを吹き飛ばすかのように、クリスマスを祝うたくさんの出店や様々な光の装飾とともに賑わいを見せていました。

スクエアには空中に浮かぶ幻想的な光の演出

 

移動遊園地には子供たちをワクワクさせる煌びやかな光

ディスプレイの光が街路に明るさ感をもたらしてくれる

 

古くから残る街の建物がライトアップで浮かび上がる

 

外のテラス席を照らす赤色LEDの光

街の中心地を歩けば、子供たちがワクワクするような移動遊園地の煌びやかな光、ストリートや広場を飾る光のデコレーション、教会など建築のライトアップが訪れる人を楽しませています。

ストリート沿いのお店は、お店を閉めてもウィンドウディスプレイの明かりは点灯したままです。こうすると、閉店したあとでもお店の商品を見せることができるため、良い宣伝効果になります。また、それによって、道の中央上に浮いている街路灯の光に加えて、道の明るさを作り出してくれるので、夜も安心して歩くことができます。

途中で家電を扱う雑貨屋さんを見つけたのですが、そこで売っていたLEDランプは全てフィリップス。さすが、そのあたりはホームであるオランダだからなのでしょうか。影響が強いですね。


また、冬は5℃近くまで冷え込むはずなのですが、外に用意されたテラス席でホットワインを片手に談笑を楽しむ人の姿も多くみられました。真冬に外のテラス席で食事は日本ではちょっと考えられない発想です。想像しただけで寒い(笑)

テラス席のパラレルに設置されている赤外線のヒーターと一緒に使われていたのは、暖かさを感じさせる赤色LEDの光。街のいたるところで目にすることができます。赤色単色なので、この光の下では全てが赤色に見えます。料理の色も赤色以外は全てくすんでしまい、美味しく見せるための光としては向いていません。決して機能的とは言えませんが、外でホットワインを飲む文化があるヨーロッパだからこその見た目の暖かさを重視した赤色の光。これも、地域ならではのひとつの光の文化と言えるかもしれませんね。

クリスマスの装飾とカラフルな光で彩られる

 

雑貨店で売られるLEDランプ

 

世界で最も美しい本屋「ドミニカネン書店」

もしマーストリヒトに行く機会があったらぜひ訪れて欲しいのが、2008年のイギリスのガーディアン紙が選んだ「世界で最も美しい本屋」の一つにも選ばれたドミニカネン書店(Boekhandel Dominicanen)です。

13世紀にドミニコ会修道院・教会として建てられたこの建物は、歴史の中で様々な国からの支配を受け、破壊と復興を繰り返してきました。教会の役割を終えて、一時は倉庫や催事場、音楽ホール、屠殺場(!)などに様々なシーンに使われていましたが、オランダ人建築家によってリノベーションされ、2006年に本屋として生まれ変わったそうです。

荘厳なゴシック様式のこの建物は、優雅なアーチを描く天井が特徴的で、色褪せてはいますが天井画もしっかりと残っています。本が陳列されている黒の建造物は木造ではなく黒のスチール。700年以上経過しているにも関わらずしっかりと残る石柱や構造体はそのまま生かして共存し、教会の縦方向のスケールを生かした設計となっています。階段を登って行くと、教会内全体を異なる高さの視点から俯瞰して見ることができます。

照明は主に本棚を照らしだす光と、建築を浮かび上がらせるアッパーの光で主に構成されており、対象物から跳ね返ってくる光で全体を明るさ感を作り出していました。2006年竣工ということもあり、まだまだ蛍光灯やハロゲンランプなどの既存光源が多かったように思いますが、とても柔らかく落ち着きのある雰囲気でした。

本屋を進んで行くと、奥にはカフェも併設されています。カフェがあったこの場所は元々聖歌隊が歌っていた場所であり、自然光もしっかりと降り注いでいました。ソファバックから浮かび上がってくる間接照明と上手く調和しており、贅沢な時間を過ごすことができます。

日本で本屋さんというと、煌々と明るい空間に本がとにかくたくさん陳列されていることが一般的だと思いますが、ここまで贅沢な空間の本屋さんはなかなかお目にかかることができないので、ぜひ訪れてみてください。



ファルケンブルグのクリスマスマーケット

これ全てキャンドルホルダー(!)

 

マーストリヒトから電車で少し走ると、ファルケンブルグという小さな町があります。ヨーロッパと言えば、たくさんの出店が立ち並ぶクリスマスマーケットですが、このファルケンブルグでは11月から1月初旬にかけて「洞窟クリスマスマーケット」が開かれています。巨大な洞窟の中にカフェや様々なお店が出店しており、そのオリジナリティから世界のベストクリスマスマーケットにも何度も選ばれています。ヨーロッパのみならず、世界中からツアーを組んで訪れるくらい人気のある場所です。

また、洞窟の中に入るためには入場チケットが必要です。私は午前中に訪れたので、まだ人が少なく、あまり待つ必要はありませんでしたが、私が洞窟を抜けた時には長蛇の列になっていたので、早い時間帯に訪れることをオススメします。

洞窟の中は思っていたよりもとても広々としており開放的な空間でした。壁や天井の岩盤を削り取ったようなテクスチャが印象的で、ポイントごとに設置されているスポットライトのような点光源がさらにその陰影を強調していました。

光源は白熱ビーム球、蛍光灯、放電灯、LEDと様々でしたが、マーケットに出店しているお店の照明はほぼ電球色で統一されて使用されており、温かみのある雰囲気が作られていました。お店とお店の間には、アクセントとなるクリスマスイルミネーションや彫刻が施されていて、訪れるお客さんの目を楽しませてくれます。

洞窟全体が照らされているというよりは、ところどころに配置されているお店から光が漏れ出していて、薄暗さの中でお客さんはその光を頼りに進んでいくようなイメージ。自然光が届かない非日常の暗闇の世界にぽっと灯るあかりは、この先に何があるんだろうというドキドキを生む少し高揚感のある雰囲気を作り出していました。

 

マーケットでは、デルフト陶器やクリスマスデコレーション用の雑貨、お菓子など数多くの商品が並んでいました。私はついつい照明ばかりに目がいってしまい、特に買い物はしなかったのですが、それでも洞窟を抜けるまでに30分近くかかりました。洞窟の一部でこのマーケットが開かれているそうなのですが、全長は27km(!)もあるのだそう。見応えは十分にありますね。


長い歴史の中で、様々な文化や支配が交錯し、それを乗り越えてきたマーストリヒト。次の新たな時代に、新しい発想やテクノロジーが既存の文化や建築とどう融合し、照明も含めてどのように変わっていくのか、これからも注目してみていきたい街のひとつです。