ブリュッセル(ベルギー) – WORLD LIGHTING DISCOVERY

地理的利点を生かした欧州の中心都市

ブリュッセルは、ヨーロッパの中央部の位置している人口116万人の国際都市です。北緯50.5度に位置し、北海道の稚内市(北緯45.1度)よりも北にあります。各大国から近く、交通の要衝にあるため、ヨーロッパ全域にまたがる国際機関の本部が多く置かれています。NATO(北大西洋条約機構)の本部や、EU(欧州連合)の諸機関である、欧州委員会や欧州連合理事会、欧州議会などはこのブリュッセルの街に置かれており、多くの欧州連合職員がこのブリュッセルで働いています。

ブリュッセルの歴史は古く、12世紀頃、その地理的利点を生かし、交易と交通の中継点として商業や手工業で栄え、職人や貿易商たちは事業を確立していきました。その後は、歴史の変遷の中でスペインやフランス、そしてオランダの支配を受けながら、1830年のベルギー独立革命を経て、ベルギーの首都としてその役割を担い、現在に至ります。オランダ語とフランス語が公用語となっています。

市街はその美しさから「小パリ」とも呼ばれており、世界遺産にも登録されています。また、美食の都としても知られており、ヴィタメールやゴディバ、ピエールマルコリーニなどの有名なチョコレート店がブリュッセルに軒並みその本店を構えています。

クリスマスにはサンタの小便小僧がお出迎え

 

光で浮かび上がる壮大で美しい世界的文化遺産

ブリュッセルの夜の市内を散策すると、まず目に飛び込んで来るのは、壮大で美しいグラン=プラス(La Grand-Place)です。このグラン=プラスは世界で最も美しい広場のひとつと言われており、1998年にはユネスコの世界文化遺産にも登録されています。

大きな塔を持つブリュッセル市庁舎

 

広場はギルドハウスや歴史的建築物で360°囲まれている

色温度の差による暖色のコントラストが美しい

 

ライトアップによりギルドの紋章や装飾が浮かびあがる

このグラン=プラスは、15世紀頃に建造された大きな塔を持つ市庁舎、王の家、そして石造りの様々なギルドハウスに囲まれて構成されています。「ギルド」とは、昔のヨーロッパの商人や手工業者の間で相互扶助を目的に結成された同業者組合のことで、それらの建物が通称ギルドハウスと呼ばれます。現在、ギルドは解散され、カフェやレストランとして使われていますが、それぞれのギルドを象徴する紋章を建物の屋根や壁に見ることが出来ます。

観光ガイドブックに載っている写真では、全体のライトアップの光の色がオレンジ色のものが多いのですが、私が実際に訪れて目で見た感じは3000K前後の白っぽく、しかもやや黄みがかったクリーム色のような色合いの光でした。(写真もなるべく見た色合いに近くなるようにして撮影しています。)これが意図したものなのか、それとも採用している光源の問題なのかわかりませんが、最初見た印象では、やや人工的というか古いLEDでも使っているのかなという印象でした。

ただ、ギルドハウスの建物の窓から2700K以下の濃いオレンジ色の光が漏れて見えたときに、外のライトアップの光とのコントラストが美しく感じたことを覚えています。室内の白熱球やキャンドルの色がぐっと際立ち、より豊かに見えます。ライトアップの色が室内と同じオレンジ色の2700K前後の色だったとしたら、ただの一枚の光壁としてしか見えていなかったかもしれません。

光源は、広場からの目線ではその存在が目立たないように設置されていました。よくよく見ていくと、スポットライトや光が伸びるラインタイプの照明器具を使用し、全て下から煽るようなアッパーライトでのライトアップであることがわかります。広場を囲む建築物全体が、水平方向の高さに統一を持たせた美しい外観によって構成されていることを、光が上手く強調していました。

私が訪れたのは12月のクリスマスシーズンでしたが、このグラン=プラスは、2月頃になると、Bright Brusselsと題した光と音のフェスティバルが行われ、さらにカラフルなライトアップが施されていきます。

[Festival of Light – Bright Brussels]
https://bright.brussels/en


また、広場を抜けて周辺をぶらぶら歩いていると、あちこちでクリスマスマーケットの出店や光のデコレーションを見ることが出来ました。

ギャルリー・サンチュベール(Les Graleries Royales Saint-Hunbert)は、1847年に完成したヨーロッパでも最も古いショッピングアーケードのひとつです。奥行のある直線的な通路に、アイアンのブラケットライトが高さを揃えて配置されています。世界有数のチョコレートの名店が軒を連ねるお店からは窓あかりがこもれだしており、対面の壁に柔らかい明るさ感をつくり出していました。また、アーチ形のガラス天窓からは、クリスマスらしく光の粒から落ちてくるような装飾が施されており、訪れた多くの人々の目を楽しませていました。


街のあちこちで光のインスタレーションを発見

 

ギャルリー・サンチュベールのアーケード

美しい鐘の音を奏でるサン・ミッシェル大聖堂

次に、ブリュッセル中央駅から北に向かって歩くと、サン・ミッシェル大聖堂(Saint Michael and Saint Gudula Cathedral)があります。外形幅57m、奥行114m、高さ54mの壮大なゴシック様式の大聖堂は、13世紀頃から建築が始まり、その後300年の時を費やして15世紀に完成しました。教会の地下からは、11世紀頃のロマネスク様式の教会の遺跡も発掘されており、長くこのブリュッセルの街に存在してきた歴史のある建造物となっています。

南側のタワーには49個から成る組み鐘が設置されており、そのうちの7つは今もその美しい音色を奏でることができます。私の宿泊先がちょうど大聖堂に近かったことから、その音色を幸運にも聞くことが出来ました。時を告げるために響き渡るその鐘の音は、訪れたヨーロッパの国々の中で一番印象に残る、とても美しい音色でした。

壮大な大聖堂のファサードがライトアップで浮かび上がる

 

豊かな柔らかい外光が差し込むアーケード

 

ヴォールトのサイドから外光を取り込む大きな窓

夜の大聖堂を訪れると、ライトアップされた建物がブリュッセルの街に静かに浮かび上がっていました。近づくと、巨大すぎてとても写真に収まりきらない大聖堂ですが、前には小さな公園があり、そこから引いて全体像見ることができます。ライトアップ自体は、正面下から放電灯のスポットライトで照らし上げる、ヨーロッパではごく一般的な手法ですが、建築物自体に迫力があって美しいので、十分に映えて見えます。

重厚な扉を開けて見える大聖堂内部は、その圧倒的な美しさと壮大さに、入った瞬間からあっと言う間に魅了されてしまいます。朝改めて訪れてみると、外光が天井の窓から差し込み、光がヴォールトの天井や壁に跳ね返って大聖堂内全体に広がっていました。外は曇りだったこともあり、空間は柔らかな光に包まれていて、クリスマスミサの美しいパイプオルガンの音も響きわたっていたことも手伝っていたのか、とても神々しい雰囲気だったことを今も鮮明に記憶しています。

自然光が差し込む大聖堂内の照明は、電球色で統一されていました。陽が差し込むアーケードの白色と、陽の光が抑えられている祭壇で映える電球色の対比がとても美しく、どことなく金や白銀をイメージさせるようなそんな光の色の組み合わせでした。

1ユーロの寄付で渡されるキャンドルの灯

こうして歩き回ってみると、ブリュッセルの街には、多くの歴史ある建物が今も残され、21世紀の今でもその中身を変えて引き継がれていることがわかりました。照明というのは、その長い歴史の中ではまだまだ日の浅いツールですが、これら建築物の魅力をどのようにして引き出し、美しく見せるのか。派手さや奇抜さだけが本質なのではなく、歴史の中での人々の想いや、建築が持つ特徴を上手く捉えた照明デザインとは何かということを考えさせられました。この歴史ある国際的な街がこれからどのように変わっていくのか、その行方がとても楽しみです。