アムステルダム(オランダ) – WORLD LIGHTING DISCOVERY

 

街全体がアートと一体になる光の祭典

アムステルダムは、かつて海運貿易の港町として発展した、街の中に網目状に広がる水路が有名なオランダの首都です。 首都と言っても、国会や中央官庁などの首都機能はデン・ハーグの街へと移管されており、 現在は観光や金融業で栄える人口80万人の都市となっています。オランダ企業の多くがアムステルダムに本社を置いており、照明についても、世界的に知名度のあるSignify(旧・PHILIPS LIGHTING)の本社がある場所でもあります。


今回は、アムステルダムで行われているAmsterdam Light Festivalについて紹介したいと思います。

この光の祭典は、毎年11月下旬から1月中旬にかけての7週間行われ、水路が美しいアムステルダム旧市街を光鮮やかに彩るヨーロッパでも屈指の屋外イルミネーションイベントです。2012年から始まったこのイベントには、世界中から多くのアーティストが集い、革新的な光のインスタレーションやメッセージ性のあるアートで人々を楽しませています。

[ Amsterdam Light Festival ]
https://amsterdamlightfestival.com/en

私が訪れたのは2014年なのですが、毎年各作品が、ヘーレン運河沿いの水上展示とアムステルダム中央駅の東側にあるエリア陸上展示に分かれて設置されています。


水上展示は、クルーズ船に乗って楽しみます。冬ということもあり、外がとても寒いので、心なしか陸上展示より水上展示に集まる人が多いです。どの時間もクルーズに乗るための行列が長く続きます。待ち時間が結構苦痛だったりするのですが、アコーディオン演奏がしっかりとそのあたりをフォローしてくれます。さすがヨーロッパ。

クルーズ船自体は大きくなく、中に入ると次々と人々が着席していきます。レトロな雰囲気の内装で、出航前はステンドグラスのペンダントライトで照らされていました。ツアーが始まれば全ての照明が消え、乗客の視線は自ずと外のライトアップへと向かいます。左右の窓でも十分開放的ですが、大きな開いた天窓もあり、視界はかなり開けます。


寒い中、アコーディオン演奏で楽しませてくれる

 

クルーズ船の中のあかり
運河に浮かぶ青い光のリング

 

船からは、通常の道路からの目線とはうって変わって、やや低い位置から街を見上げるような非日常的な光景が広がります。

水路を走れば、空中に青いリングが浮いていたり、水の上に光のチューリップが咲いていたり、七色に光るトンネルの中をくぐったりと、様々なインタレーションを目にすることが出来ます。実際は船が動いているのですが、時より私たちが止まり、インスタレーションが動いて見えるような錯覚になることもありました。作品によっては遠くてよくわからなかったり、コンセプトがぱっと見あまり伝わらなかったりといった作品もちらほらありましたが、水面での反射や船からの視線、街の地形を上手く利用した見せ方はすごく勉強になります。

船の上という「劇場」で次々と光のアートが登場し披露されていく。客席に座って、受け身で楽しむスタイルがこの水上展示でした。


水上展示とは対照的に、自分の足で能動的に街の中を歩き回り、各所の作品を見つけながら楽しむ陸上展示もあります。

時には触れることで反応するような、体験型のインスタレーションに数多く出会うことが出来ます。地図を片手に、街の中にあるインスタレーションを探し回るというのが個人的にとても好きです。子どもの頃、宝探しのために途中数々のミッションをこなしていく、そんなワクワク感を感じたことを今でも覚えています。ただ、外がとても寒いので、結構防寒をきちんとしていかないと心が折れそうになりますが…

 

 

 

 

 

 

写真のようなインスタレーションが街のあちこちに点在しており、訪れる人に驚きとインスピレーションを与えてくれます。公園の中や歩道の途中、水路に掛かる橋の上、建物への投影など、様々なアイディアで街と光の作品が一体になっている様子を楽しむことが出来ました。

ちなみに、毎年数百もの世界中のアーティストがこのイベントに応募し、厳しい選考の中から選ばれた数名(!)のみ展示が許される狭き門です。単純なライトアップと違って、全く違う作品に出会えるということもこのイベントの人気の理由のひとつかもしれません。

光の持つ性質を上手く生かした作品に、照明の仕事をしている私は、ただただその発想に驚かされるばかりですが、一方では物足りなさを訴える声もあるようです。光の祭典と聞くと、派手な装飾やダイナミックな煌びやかさを期待して訪れる人も多く、そういう観点で見ると、少しがっかりしてしまうのかもしれません。「光」というと、どうしてもその明るさや派手さに目が行きがちですが、あえて暗く見せることも実は表現としてとても重要な要素だったりします。一見地味に見える作品も、その表現の意図を理解しながら見ると、意外な発見や気付きがあって面白いと思うのですが、誰もがわかるように伝えることの難しさがそこにあるのかもしれません。


冬の暗い時間が長く続くヨーロッパ。Amsterdam Light Festival はその暗い夜を逆手にとって、人々の気持ちを明るく盛り上げてくれます。アムステルダムの水路という街の特性を上手く生かしていて、他のヨーロッパの街では真似が難しいオリジナリティもあります。街の中に光のインスタレーションを行うというのは、日本やアジアではギラギラした街の広告や街灯が邪魔をしたり、住民の苦情があったりと、簡単にはいかないでしょう。街と一体となったイベントは、ヨーロッパの光の感性の中でだからこそ実現できるのかもしれません。

窓あかりが夜の街並を彩る
飾り窓地区に点在する窓の赤い光

 

アムステルダムを彩る「窓」の光

次に、アムステルダムの街の明かりについて目を向けてみると、窓から漏れる光がとても印象的に映りました。

元々、細長くかわいらしいファサードが特徴の伝統的な運河地区の建物ですが、驚いたのはカーテンをしていない家が多いということ。ロッテルダムでもそうでしたが、外にいる人に私の私生活を見て!と言わんばかりに全開です。「夜はカーテンを閉める!」と教わってきた私の目にはとても新鮮に写りました。このカーテンが開いていることで、窓あかり自体に奥行感をもたらしていて、まるで建物自体が大きなランタンのように見えます。それがたくさん連なり、町全体を照らし出している。そんな夜の街の風景はとても新鮮でした。


また、アムステルダムには「飾り窓」と呼ばれるRed Light District(赤線地区)が存在します。

オランダは、売春やマリファナが合法です。この赤線地区には、 何やら怪しい匂いがする所謂「コーヒーショップ」があちこちに存在します。そして、この地区の象徴とも言えるのが、赤色の蛍光灯の光です。女性は窓際に立ち、この派手な赤色の蛍光灯の下に自分自身を「飾り」ます。赤色蛍光灯の他に、ブラックライトも合わせて混色しているようでしたが、 離れた位置から見ても目立つこの赤い窓が赤線地区の夜景を彩り、これが非日常的な妖艶な雰囲気を作り出していました。

この地区は、特に隔離された場所にあるわけでもなく、むしろ街の中央に位置しています。治安も悪くなく、そういう目的ではない多くの観光客もたくさん歩いていて賑わいを見せていました。もちろん、被写体が映り込むような写真は厳禁で、強面で屈強なガードマンが常に監視の目を光らせています。

これらの「窓」の光は、人の持つ欲望や快楽を正面から向き合い、自由で開放的な国のオランダだからこそ実現した光のアイデンティティのひとつと言えるかもしれません。