コペンハーゲン(デンマーク) – WORLD LIGHTING DISCOVERY

デンマーク観光業の中心地

デンマークの首都であるコペンハーゲンは、人口は約55万人、市街域や都市圏全体を含めると約190万人に達し、北ヨーロッパでは最大級の都市圏です。デンマーク東部のシェラン島東端に位置しており、コペンハーゲン湾に面しています。また、隣の国スウェーデンのマルメとも道路や鉄道で繋がっており、国際的なハブ空港であるコペンハーゲン空港へのアクセスも良いことから、北欧諸国への玄関口として、陸路・海路・空路のいずれにおいても運輸面で重要な役割を果たしています。

デンマークの中心産業は農業であり、農地が国土の約6割を占めています。近年では、風力発電などのエネルギー産業やバイオテクノロジーも発展していますが、同様にデンマークの大きな産業となっているのが観光業であり、コペンハーゲンはその中心となっています。「チボリ公園」や「人魚姫の像」などは聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。


私たち照明デザイナーにとって馴染みのある照明器具メーカー「Louis Poulsen(ルイス・ポールセン)」も、ここコペンハーゲンで1874年に創業しています。デンマーク人アーティストのポール・ヘニングセン氏によって設計された、日本でも人気の高いPH5のペンダントライトは、どこから見ても光源が直接見えないよう設計されていて、その内側からこもれ出る光の美しさは私たちを魅了しつづけています。他にもアーティチョークやAJランプなどの数々の名作がここコペンハーゲンの街から誕生しています。

[Official Louis Poulsen® Website – See our classic designer lamps, the original PH lamp, AJ Table]
https://www.louispoulsen.com/da-dk/private




コペンハーゲンの港を彩る夕焼けの空

 

どの角度からも光源が直接見えない美しいフォルムのPH5

 

壮大で圧倒的な自然の光を感じる光の教会

グルント・ヴィークス教会正面ファサード
ペーパーの折りや重ねによる陰影が美しいレ・クリント

 

コペンハーゲンを訪れて印象的だった2つの教会を紹介したいと思います。

ひとつは、コペンハーゲン北部のビシュペビャー地区にあるグルント・ヴィークス教会です。コペンハーゲン中心部からEmdrup駅まで電車に乗って、10~15分も歩けば着きます。この教会は、1913年の建築設計コンペで勝ち取った「デンマークモダンデザインの父」とも呼ばれるイェンセン・クリントによって設計されました。

プラスチックペーパーで折られた幾何学的なプリーツシェードが特徴のデンマークの照明器具「LE KLINT(レ・クリント)」は、このイェンセン・クリントの名前に由来しています。彼が日本の折り紙からインスピレーションを受けて、紙で織り上げたレ・クリントのシェードは、どれもみな柔らかい透過光と美しい陰影を生み出しており、1世紀を超えてなお、世界中の人々に愛され続けています。

[ LE KLINT – Danish Design and Craftsmanship since 1943 ]
https://www.leklint.com/


1921年から1926年まで主に建設行われたものの、内装やその周辺の工事が長い間続き、途中、息子であるコーア・クリントによって引き継がれて、完成したのはなんと1940年(!) 独創的な斬新なデザインに特徴がある表現主義の様式で、第一次世界大戦によって実現しなかった建築物が多かった中、実際に建設された数少ない建築のひとつとなっています。

レンガを用いて表現されたそのユニークな造形は、他の国のどの教会でも見ることのない非常に珍しいものです。まるで、デンマークの代表的な遊具「レゴ・ブロック」で作られたような、ブロックを幾重にも積み上げた形をしています。

中に足を踏み入れると、外観の意匠と同様に、幾何学的なテクスチャの大きな柱が中央の祭壇に向かって連続して続いており、その壮大さに思わず圧倒されます。両脇にはリング状に重ねられた形のシャンデリアが連なっていて、壁がプレーンで同系色のタイルで構成される中、空間のアクセントになっています。

特に印象的だったのが、東側から差し込む自然光が作る空間の表情の移り変わりでした。空間の色彩はオフホワイトのタイルで統一されているため、奥行を感じさせるものは、あくまでこのタイルの凹凸の陰影のみです。訪れた日はちょうど晴れたり曇ったりの天気だったのですが、陽の光が強く差し込むときにはこの陰影が濃くなり、陽を雲が遮ると拡散した光で一様に照らされて柔らかい印象に変化します。

また、厳かな教会建築でよく見るステンドグラスは存在せず、縦に伸びるスリット状の窓から覗く青空が美しく感じさせます。デンマークの空の色の変化や美しさを考えれば、華美な装飾など必要なく、シンプルで洗練されているからこそ、陰影の移り変わりや自然が持つ美しさに気付くことができたのかもしれません。


数多くあるコペンハーゲンの教会の中で、もうひとつ紹介したいのは中心地に位置するコペンハーゲン聖母教会です。12世頃から存在するコペンハーゲン聖母教会は、歴史の中で度重なる破壊や火災などを繰り返しながら、1829年に新古典様式として完成したものが現代に残っています。正面にはタワーも併設しており、コペンハーゲンの街並を一望することが出来ます。

中に入ると印象的なのが、真っ白でテクスチャのある美しいアーチ状の高天井と自然光を透過させるように配置された柱です。側面の窓や天窓から差し込む自然光が白い面に反射するため、教会内は明るく、かつ荘厳な雰囲気が作り出されています。白という素材は、自然光の色温度を素直に反映するため、時間によってはやや青みがかった空間になることもあると思いますが、奥の祭壇の暖かみのある光とのコントラストが印象的でした。アーチ天井からはリング状のシャンデリアが浮遊しているかのように設置されており、私が訪れたときは点灯していませんでしたが、アクセントとしての煌めきの光もありました。

また、この教会では夜になるとカラーライティングを使った演出などもされていて、現代文化や技術が合わさった違う一面も見ることができそうです。私が訪れた冬では、無数に灯されたキャンドルによって、2000K~2200Kの暖かい光が教会全体を包みこんでおり、ほの暗く、低い位置に配置されたキャンドルの光は静けさと心の穏やかさを与えてくれるような優しい光でした。



光の制御を意識した街の照明器具の数々

コペンハーゲンの街を歩きながら気になったのが「街灯」のデザインです。照明器具というものにも寿命があり、時が経つにつれて、光源やデザインもその時代に合ったものへと変化していきます。古いものから新しいものまで、街を歩きながら注意を向けて写真に納めてみると、面白い共通点がありました。

それは、コペンハーゲン市内の街灯や照明器具は下方向にのみ光が広がる下方配光のものがほとんどで、光害の原因となる上部へ抜ける光が少ないということです。もちろん、全てではないと思いますが、下方配光が圧倒的に多い印象です。

日本では、こうした周辺環境を意識した設計の器具は少ないように感じます。LED化が進む前の少し古い器具になると、水銀灯やメタルハライドランプなどの360°全方向に光が強く広がる光源が、明るさや効率が最優先されて剥き出しになっているケースも少なくありません。そうすると、未だに不要なものが照らされていたり、周辺地域の不快なグレア(眩しさ)になり、いわゆる「光害」が多く発生してしまいます。近年でこそ、LED化や照明デザイナーが入ることで改善されてきてはいるものの、日本人は昔からこういった環境に慣れてしまっているせいか、意を唱える人はまだあまり多くないと言えます。

一方、コペンハーゲンで見かけた照明器具は、シェードが不透過な素材で、下方向のみへ配光制御されていたり、下から見える光源が直接見えて不快なグレアにならないよう、フロストによる拡散光や、素材に一度バウンドさせる反射光に変換されていました。年季の入った古い街灯でさえ、光の行方がきちんとコントロールされ、必要なところにのみ光で照らしています。どの角度から見ても光源が見えないように設計されたルイス・ポールセンのPH5は、それをどこまでも突き詰めた正に究極の形と言えると思いますが、その発想はこうした文化にもあるように思えました。



星空が見えるコペンハーゲンの街のあかり

ヨーロッパの街を歩いて照明探索をする中で、このコペンハーゲンは非常に楽しみにしていた街のひとつでした。前述の街灯のデザインからもわかるように、他の国よりも光に対する意識が高いですし、日本とは違う発見があると思っていたからです。

訪れたのは3月頃。陽が沈み、空も闇が深まって、さあいよいよと歩きだした私の第一印象はとにかく

「暗い!」

でした。私も照明デザイナーの端くれですから、暗さに対する理解や許容はあったつもりですし、むしろ日頃から無駄に明るくするのは止めようと言っている立場です。しかし、その衝撃的な暗さは、私の想像を超えていたようで、無意識に何か犯罪に合わないだろうかと心配してしまうほどのほの暗さでした。

その暗さに少しの恐怖感と感動を覚えつつ、コペンハーゲン王立図書館から、コペンハーゲン港を臨み、市街地へと進んでいきます。そこでふと空を見上げると、いくつか星がくっきりと見えることに気が付きました。首都のど真ん中で、ここまで星がクリアに見えることというのはあまり記憶になく、光をきちんとコントロールする意識を持てば、たとえ都会だって、たくさんの星を眺めることができるのかもしれませんね。

コペンハーゲン港を彩る光はどれも控えめ 

写真で撮ると明るく見えるが、実際はもっと暗い

街を照らし出す明かりは下方にしっかりと制御されている 

柔らかくぼんやりとした光で浮かび上がるトーヴァルセン美術館

グレアも光の方向もきちんと制御されたコペンハーゲン市内ですが、建物のライトアップも控えなものが多いように感じます。他のヨーロッパの国々では、歴史ある建築物の造形を捉えて強い光で強調するといったライトアップが多い中、コペンハーゲンではあまりそういった光景は見かけません。配光が広い投光器で柔らかくぼんやりと照らし出す程度。シンプルですが、陰影を楽しむような表現は私にとっても新鮮な発見でした。

もちろん、全ての建物がそういった照明というわけでもなく、コペンハーゲン中央駅構内にはカラーライティングが使われていたり、日本のような明るさではありませんが、セブン・イレブンだってあります。有名なチボリ公園だって無数の電球で彩られていますし、メディア・ファサードの建物もあったりと、賑やかさも確かにあるのですが、その数はあまり多くないように感じました。

コペンハーゲン駅構内は赤で染められたアーチ天井が印象的

広告のモニターから発する強い光が際立つ

最近では高性能なカメラが増えたせいか、実際の明るさのレベルを写真で表現するのは意外と難しかったりするので、照明に興味がある人はコペンハーゲンにぜひ足を運んでその目で確かめてみることをおススメします。ただ、治安が良くないという情報もあり、夜の一人歩きには十分気を付けてください。