セビーリャ(スペイン) – WORLD LIGHTING DISCOVERY
闘牛やフラメンコで賑わうアンダルシア地方の中心都市
スペイン・アンダルシア州の州都であるセビーリャ(セビリア)は、闘牛やフラメンコの本場であり、スペインを代表する観光都市です。人口は70万人と、スペイン第4位の規模を誇り、古くからスペイン南部の政治・経済・文化の中心地としてその役割を果たしてきました。
イベリア半島の南部、地中海の海岸から70kmほど内陸に位置し、街にはアラビア語で「大きな川」を意味するグアダルキビール川が流れています。
その歴史はとても古く、古代ローマ時代から都市として栄えてきたセビーリャは、8世紀にはイスラム帝国の支配下に入るなど、侵略や合併を繰り返しながら、様々な文化や思想が入り混じってきました。そして、大航海時代と呼ばれる15世紀半ばから17世紀には、農作物や工業製品輸出に大きく寄与し、港湾都市として大きな発展を遂げたと言われています。
現在でも、新たな工業団地やビジネスパークが相次いで建設されるなど、経済面で注目の高い都市です。観光面でも「セビーリャ大聖堂、アルカサル、インディアス古文書館」が世界遺産に登録されており、タイルの装飾が美しいスペイン広場なども有名です。とあるガイドブックでは、世界で最も訪れるべき都市第一位にも選ばれています。
北緯は37°と、日本では新潟県と同じ高さにあるものの、地中海性気候の影響もあって、夏はとても暑く乾燥し、冬は温かく降雨量が増えます。ヨーロッパの中で最も温暖な都市のひとつと言われています。
世界で3番目の規模を誇るセビーリャ大聖堂
セビーリャの中心地には、街のランドマークとも言えるセビーリャ大聖堂があります。
1987年に世界遺産に登録され、その規模はバチカンのサン・ピエトロ大聖堂や、ロンドンのセント・ポール寺院に続く世界で三本の指に入る大きさと言われている、スペインでは最も大きなゴシック様式の大聖堂です。
元々、イスラム帝国支配下にあった時に存在していたモスクを破壊し、その跡地に建てられたのがこの大聖堂と言われています。「後世の人に正気の沙汰ではないと思われるような大聖堂を建てよう」というコンセプトの下、この圧倒的な大きさの大聖堂が造られました。そんな大聖堂の内部を一目見ようと、外には拝観を希望する多くの観光客が常に長蛇の列を成しています。
中に入るとすぐに大航海時代の象徴とも言える、コロンブスの墓(空中棺)を見ることができます。また、礼拝堂内には多くの祭壇があり、宗教画や聖杯などのコレクションがそれぞれ展示されています。
入った空間の印象として、建物のスケールとは対照的に窓が小さく、室内に入ってくる自然光は限られているように感じました。一年を通して、暑く、強烈な日差しが入るアンダルシア地方という土地柄、室内に入る光は制限して、室内の涼しさを保っているのかもしれません。たまに見かけた床や壁を照らすステンドグラスからの透過光の映り込みがアクセントとなっていたのが印象的でした。
室内に差し込む自然光は少ないものの、高さのあるヴォールト天井が照明の光によって照らしあげられることで明るさ感が増し、開放感のある印象の空間となっています。ヴォールト天井の四隅におそらくスポットライトのようなものが設置され、ヴォールトの中央に向かって照らし上げるような手法が取られていました。場所によって色温度も異なっていて、中央の主祭壇に向かって明るさ感が強くなり、色温度も天井面は電球色→白色へとコントラストがつけられています。
主祭壇には、キリストとマリアの人生の重要な場面が描かれているとされる「黄金衝立」が展示されています。この黄金を照らす照明には、白熱灯に近い2500K以下のより暖かみのある光が使われていて、金色の輝きをより深いものにしていました。周囲とは異なる光を用いることで、特別感がより強調されています。
歴史的遺産として建築物全体が展示物と言えるため、全体として、建築装飾のディテールや絵画などのコレクションを強調するような、展示的要素の強い照明手法が多い印象です。しかし、照明器具の存在も見せない工夫もきちんとなされており、空間の雰囲気を損なわずに、人々が歩き回るための最低限の明るさも確保されていました。
人工的な照明がなかったであろう時代には、人々はたいまつやわずかな自然光を頼りにこの大聖堂内を過ごしていたのでしょうか。今は見ることが出来ませんが、それがどのような光景だったのか、想像してみるとなんだかワクワクしますね。
整備されたライトアップが美しいセビーリャの夜
夜のセビーリャの街を歩き回ってみると、想像していたよりも街のあかりの整備が進んでいるという印象で、昼間とはまた異なる雰囲気となっていました。
メインストリートには、意匠性のある街灯がトラムのレールに沿うように連続性を持って美しく配置されていて、街全体を柔らかく照らし出しています。複数の浮遊する光がパースペクティブで見えているのが印象的で、周囲に広がる明るい光によって、行き交う人々も安心して歩くことが出来ます。
また、街のランドマークであるセビーリャ大聖堂も、夜は照明によって違った表情を見せていました。照らし出すポイントを絞り、上手くコントラストがつけられているライトアップは、建物を街の風景の中に溶け込ませるかのように柔らかく浮かびあがらせています。景観を意識してなのか、周囲に煌々とした看板やギラギラした照明は皆無で、夜の街の見え方が上手に作り込まれているという印象を受けました。
セビーリャでは歴史的な建築物だけでなく、近代的な高層ビルやユニークな建築物を目にすることが出来ます。キノコのような独特の形をしたメトロポール・パラソルもそのひとつです。木造建築としては世界最大級とも言われるこの建築は、ドイツの建築家ユルゲン・マイヤーによって設計され、2011年に建てられました。照明もカラーライティングが用いられており、セビーリャの古典的なイメージとは一線を画すようなイメージの建物も楽しむことが出来ます。
セビーリャではその他にも、川沿いのトリアナ地区など、歴史的建造物や橋などが光によって美しく浮かび上がる光景を目にすることが出来ます。
現代技術のひとつである照明が、こうした歴史あるセビーリャの街並と融合して、より価値のあるものへと進化させていく様子を見ると、都市計画においても、照明デザインが果たす役割の大きさを改めて感じることが出来ますね。
アンダルシアの夜を彩る情熱の赤!!
夜な夜なユニークな光の風景を求めて歩き回り続けると、さすがにお腹も空いてきます。何か食べるものをと求めて、セビーリャ大聖堂を少し北に進むと、バルが立ち並ぶ「アルゴテ・デ・モリーナ通り」に遭遇。ここは、美味しそうな匂いも去ることながら、この通り一帯のほとんどが赤い光で染まっていて、なんだかワクワクさせるような雰囲気でした。
スペインと言えば、闘牛やフラメンコの情熱的な赤!ぴったり!さすがスペイン、アンダルシア!と言ったイメージ通りの光なのですが、土地柄特別にそうしているわけでもなさそうです。
私がセビーリャを訪れたのが3月頃の冬だったので、比較的暖かい気候とは言え、夜は10℃前後と肌寒くなります。とはいえ、地元の人はそんなことはお構いなしに外の席でゴハンを食べることも多いため、バルを光で赤く染めるのはそういった寒さ対策だったりもするのですね。
単色の赤の光だけでは料理の色も美味しそうに再現することが難しいせいか、スタンドライトの電球色の光と組み合わせているバルもありました。
アルゴテ・デ・モリーナ通りはやや道がカーブしていることもあり、通り全体を見渡すことが出来ます。店先から漏れる赤い光が道に沿って染められているのが良い雰囲気なので、一年中ここにアンダルシアらしさのある赤の光があったら素敵なのになぁと勝手に思っていました。
「赤」のイメージが根強いスペイン!お腹を満たすだけでなく、ユニークな光景に出会い、素敵な時間を過ごすことが出来ました。