マドリード(スペイン) – WORLD LIGHTING DISCOVERY

伝統と革新が共存するスペイン政治・経済の中心地

マドリードは、スペイン国内では最も人口の多い325万人から成り、首都として政治・経済の中心地となっています。都市あたりのGDPは、ロンドンやパリ、モスクワなどと肩を並べるレベルで、世界的な金融センターとしての役割を果たしており、ヨーロッパ屈指の世界都市のひとつです。


地理的条件や水資源に恵まれているマドリードは、長い歴史の中で王国の首都として栄えてきました。市内中心地には今も歴代スペインの王が暮らした王宮があり、かつての権威の大きさを感じさせます。歴史的価値の高い都市が多く存在するスペインですが、そういった伝統的なイメージとは対照的に、マドリードはどちらかというと都会的で洗練された印象を受けます。

市内を歩けば、世界的にも知名度の高いファッションブランドが軒を連ね、世界中からの観光客や買い物を楽しむ人々で賑わいを見せています。また、オフィスビルや現代的なコンクリートの高層ビルなどもあちこちで目につきました。


また、マドリードのあちこちでは歴史ある建物を利用したリノベーションも進んでいます。1918年に作られたサン・ミゲル市場は、その面影は残しながら改装が進められ、現在は観光客や地元の人々の立ち飲みの場として人気のスポットです。

柱や外形などの構造はそのままに、外はガラスで覆うようにモダンなテイストが加えられています。中に入れば、日本のデパ地下のような美味しそうなタパスがたくさん並んでおり、その雰囲気も相まって、思わず魅了されてしまいます。

こうした伝統や歴史と上手く共存しながら、現代的なファッションや革新的な取り組みを積極的に行うことによって融合し、進化を続けています。




新鮮な食材が集まるサン・ミゲル市場

 

サンミゲルビールとタパスは定番

  

技術革新へと積極的なチャレンジを進めるマドリード

世界に先駆けてマドリードでは、2014年頃までに急ピッチで都市のLED化を進めてきました。世界最大規模の照明メーカーであるフィリップス社は、約22万個のLED道路照明をマドリード政府へ提供しています。これは既存光源からの置換による省エネ推進だけではなく、道路照明システム全体をコントロールするIoT化によるスマートシティの実現を狙ったものとなっています。


” このプロジェクトは、マドリード市で前例がないほど大規模な技術更新になるでしょう。重要な目標を成し遂げるには変化が必要です。すなわち、時と場所に応じて照明の光度規制を設けることで、エネルギー効率に優れた照明器具によってマドリード市内のエネルギー消費量を抑えながら、都市照明の寿命を延ばし、光害を制御することができます。(中略)この新照明システムを導入すれば、スマートシティ実現に向けて大きく発展できます。持続性が高まり、地域の活性化にもつながります。”  - Signify ホームページより引用(2014年12月19日スペインで発表されたプレス抄訳)

https://www.signify.com/ja-jp/our-company/news/press-release-archive/2014/20141219-madrid-upgrades-city-infrastructure-with-philips-lighting

(Signifyサイトより引用)

 

(Signifyサイトより引用)

こうした動きはマドリードの他、マイアミ(アメリカ)、パリ(フランス)、ジャカルタ(インドネシア)などの世界各地の都市で進んでいます。将来的に、照明器具は明るさを生み出すだけのものではなくなり、センサーによるデータ収集や明るさの制御、Li-wiなどに代表される光自身がデータを持つような、そんな高度情報化社会の実現が目の前に迫っていると言えるのかもしれません。


 

 

実際にマドリード市内を歩き回ってみると、さすが首都だけあって、他のスペインの地方都市と比べると交通量も多く、賑やかな印象です。

私がそんなマドリードを訪れたのは2015年頃。ちょうど前述の発表がリリースされた頃ですが、その言葉どおり街灯はそのほとんどがLEDに置き換わっていました。

新規で設置された街灯よりも、既存の街灯をどのようにLED化させていくかに重点が置かれていたように思います。コスト面もそうですが、街灯の意匠が作り出す街の景観を考慮してということもあるかもしれません。

元々放電灯が入っていたであろう装飾のある照明器具なども、レンズ付きLED基盤が装着できるように改造されており、ガラスグローブが光を全体へと拡散させていました。直進性の強いLEDの配光特徴を考慮したものとなっています。

360度広がる既存光源より1方向にしか発光しないLEDの方が光の制御はしやすいので、積極的なLED光源の活用は必要なところだけを効率よく照らし、光害防止にもつながります。


これらの街灯のあかりが、だんたんとスマートシステムの中へと組み込まれていき、ただ「照らす」だけの存在から、街の様々な情報の収集やAIによる必要照度の調整、エネルギーの削減が期待されます。セキュリティやデバイスのアップデートなど、まだまだ様々な課題があるものの、このマドリードの取り組みは、将来的な街のあかりの考え方を大きく変える可能性を秘めています。



まだいくつか既存光源が使われている器具もあった

 

LED基盤に置き換えられた光源

 

これからの発展が期待される街のあかり

2人の子どもたちがかわいいマドリードの信号

 

マドリード中心部には、王家の美術品が展示されるプラド美術館や今も迎賓館として使われている王宮など、歴史的価値のある観光スポットがたくさんあります。夜のマドリードの街を歩き回ってみると、様々な街の光に出逢うことが出来ます。


まず訪れたのは、スペイン文学者セルバンデスとドン・キホーテの像が建てられているスペイン広場。

中央に設置された像が、白い光の投光器によって漆黒の夜の空に浮かび上がっています。ライトアップを邪魔する光害になるような強い光や、公園付近の建物から放出される光が少なかったせいか、周囲に対して強いコントラストが生まれて、像が上手く際立っています。

また、近くにある王宮も同様に、スケールの大きい存在感のある建築物が暗闇の中に静かに浮かび上がっていました。建物のライトアップ自体はシンプルな投光器によるものでしたが、ギラギラと主張する強い光ではなく、ぼんやりと照らされています。

こうした手法は、周辺が明るすぎたり、派手で強い光が存在するとライトアップが死んでしまうため、周辺の光環境の整備がきちんとなされていなければ上手くいかないことが多いのですが、このあたりの光はきちんとコントロールされているように思えました。



幾何学模様で描かれるステンドグラス

  

床の石板を色に染まった光が照らす

これらモニュメントの周辺の街灯は温かみのある電球色で統一されており、明るさだけでなく光の色でもコントラストがつけられています。

建物を照らす投光器からの光が全体的にやや緑みがかったような白に見えるのは、水銀灯などの放電灯がまだ使用されているからです。以前は明るく白い光の代名詞と言えば放電灯でしたが、ハイパワーで長寿命のLEDが台頭してからは、蛍光灯と同様に古い光源のひとつになりつつあります。LEDの方が省エネルギーで色の再現性にも優れているため、いずれは置き換わっていくことが自明的ですが、こうした緑がかった白の光を見ることも少なくなっていくのかもしれません。

連続した光がマヨール広場へと導いてくれる

 

マヨール広場の上階部は夜も暗いところが多い

次に訪れたのは、かつてはマドリード最大の市場として、また闘牛やサッカーの試合、公開処刑などが行われたと言われるマヨール広場。

夜訪れてみると、まだオープンしているカフェや商店が多く、まだたくさんの観光客で賑わいを見せていました。照明については、3階建ての建物は集合住宅として使われていることもあってか、壁面を照らすようなライトアップはなく、地上回廊のあかりだけが同じレベルで水平方向に広がっていました。

この回廊の柱と柱の間に設置されたあかりは、パースペクティブな視点で見たときに柱に上手く隠れて直接見えないため、柱に当たってバウンドした光だけが連続的に見え、それが美しいグラデーションを作りだしていたのが印象的でした。

多くの人で賑わうプエルタ・デル・ソル広場

  

投光器で明るく照らされるデパートが街の賑わいを演出

 

公共交通の起点でもある街の中心広場プエルタ・デル・ソル(Puerta del Sol)は、マドリードのショッピングスポットとなっており、いつも地元の人や多くの観光客で常に賑わいをみせています。

広場にはマドリードの紋章にもなっている「クマとイチゴの木」の銅像などがあり、マドリード州首相公邸や大型デパートなどの建物が広場周辺を取り囲んでいます。これらの建物の外壁は夜になるとライトアップされて、広場に光の壁を作り出しており、活気のある広場に華を添えます。

ただ、ここもスペイン広場と同様に光源は既存の放電灯の使用などが目立ち、色みも緑みがかっていたり、経年劣化やランプ交換によるミスで色温度が異なるなど、メンテナンスがあまりきちんとされていないような印象でした。LED化がさらに進むと、このあたりの見た目の悪さは解消されていくかもしれませんね。



生ハムのお店を照らす赤みの強い光

マドリード市内を歩いていてよく目にしたのが、生ハムを販売しているお店でした。スペインといえばビールやワインを片手に、小皿料理のタパスを楽しむのが定番ですが、この生ハムはタパスの中でも人気のある食材のひとつです。

あるお店では生ハムを照らすディスプレイライトにやや赤みの強い光のスポットライトが使われていました。日本でもたまにスーパーマーケットの生鮮食品のお肉コーナーにこうした赤みのある光が使われていることがありますが、これはお肉の赤みをさらに増す効果があるためです。

生ハムを売るお店ではややピンク色の光が使われていた

  

赤みの強い光は生ハムの赤さを増す

バルセロナのマーケットでもこういった赤みを強調するような光が使われているお店をよく見かけました。スペインを代表する食文化のひとつと言っても過言ではないかもしれませんこの生ハムに、この赤みのある光が街のあちこちで当たり前のように使われるようになったとしたら、やがてそれが長い年月をかけて街の光のアイデンティティとして定着するかもしれません。マドリードといえばこの赤みのある光となったら面白いですね。