ユニークな建築が立ち並ぶ先進的な貿易都市
ロッテルダムは、人口は約64万人のロッテルダム港を擁する世界屈指の湾岸都市です。オランダで二番目に大きい都市で、ライン川、マース川、スベルテ川が北海へと注ぐデルタ地帯に発展してきました。主要産業は、造船や工業が中心となっており、貿易量はヨーロッパの中でもトップクラスと言われています。世界各国からヨーロッパ各地への輸入品の多くがこの地で水揚げされています。アムステルダム・スキポール空港からも近い、日本人にも人気の都市です。
ロッテルダムの街を歩いていくと、独創的でユニークな近代建築にたくさん出会うことが出来ます。中央駅から少し歩くと複合施設が見つかるのですが、このファサードは多面体だったり、窓の形がくねくね曲がっていたり、色も個性が強かったり。常識にとらわれず、挑戦的で面白いデザインの建築は見ていて飽きません。個人主義の自由な風土のオランダならではと言えるかもしれませんね。
新しい街のシンボルとなったフードマーケット
特に目を引くのが、一見ロールケーキのような形をしたフードマーケットのマルクトハル(Markthal)です。2014年に完成したこの建物は、ロッテルダムを拠点に活動する建築家集団MVRDVによって設計された街の新しいランドマークのような存在となっています。中央部分は、オランダ人アーティストによって描かれた巨大で色鮮やかな絵画が壁面・天井一面を覆っており、ここには100を超える生鮮食品店やレストラン・カフェが軒を連ねています。外側のアーチ部分には、総戸数228戸の集合住宅が配置されており、窓からマーケット内を見下ろすことも出来るようです。
マーケットでは、チーズやハム、ソーセージの肉類や数々の野菜、お酒やチョコレートなどが豊富に並べられています。また、軽食を取れるようなカフェスペースもあり、観光客や地元の人々で賑わいを見せていました。高さのある大きいアーチ状の天井が解放感をもたらし、ビビットでカラフルな壁画は訪れる人を高揚させ、食欲やワクワク感を高めてくれるような雰囲気を感じます。
出店スペースには、鉄骨のフレームユニットが割り当てられており、その中で各店舗がレイアウトを工夫をしていました。フレーム外側に取り付けられたスポットライトは共通してお店前の床面を照らしていて、内装の照明はレイアウトに合わせてダクトレール付けのスポットライトを追加していたり、什器内の照明で商品を強調するようなシンプルなものです。色温度は3000K前後の電球色が中心となっていました。
私がこの建築で一番気になっていたのが、「どうやってこのカラフルなアーチ状の天井を照らしているのか」ということです。
フレームユニットの上にどこかにスポットライトか何かが上向きに取り付けられていているのだろうとなんとなく見当はつけていたのですが、歩き回ってもなかなか見つかりません。2階に昇ってみたり、あちこち色んな角度から見回して探して、建物中央付近にあった天井上に緑化された芝の中にようやくそれを見つけることが出来ました。無骨なスポットライトが目立たないよう、植栽でその存在を隠す配慮がなされていたわけです。その芝自体も均一に美しく光らせて見せるためなのか、割と小さいスポットライトが多く並べて配置されています。アーチの頂点付近は、これらのスポットライトが真上に向かって光を放つことによって照らされ、空間が持つ解放感をより強調させていることがわかりました。
また、壁沿いにはブラケットタイプのアッパーライトが配置されています。しかも、よく見てみると、照明器具間隔も広いせいか、壁面に光ムラもありました。単色のプレーンな天井面だったら目立ったかもしれませんが、全体として見たときにはこの光ムラはそこまで目立つものではなく、圧倒的な色彩の前に掻き消えて、意識して見ないと気付かない程度。意図したものかわかりませんが、意外とこの光のムラが絵画の色彩に濃淡を生み出していて、少し立体感が出て見えるような気がしてしまうのは、ひとつの大きな発見でした。
マルクトハルは地下から駅へと連結しており、そこに一般的なスーパーマーケットもあります。ここのスーパーマーケットの色温度は、意外なことに3000K程度と温かみの強い色合いでした。日本でも最近では様々なスタイルのスーパーマーケットが増えましたが、それでもおよそ3500K~5000Kの白い光が主流ですので、入った瞬間にスーパーマーケットとしては少し驚きがあって新鮮でした。ここでは商品を際立たせるようなスポットライトのような光は限られていて、ベースライトを中心とした光のメリハリが少ない空間となっていました。
見ていて楽しいロッテルダムの夜
ロッテルダムの夜の街を歩くと、目に飛び込んできたのがマース川沿いに広がる港の荷を下ろすクレーンや船の数々。夜に人が作業をしている様子は見当たりませんでしたが、船や港を彩るカテナリーライトが川沿いの街並みを彩っており、暗く寂しげな印象を感じることはありません。
宿泊先から川沿いに歩いていく途中には、小さな橋から高架下の道路まで、街を構成している様々なものが光によって演出されていました。道路灯ももちろんあるのですが、こうした演出が街に明るさ感をもたらしてくれるので、知らない土地でも少し安心して歩くことが出来ます。単調な道路灯ではなく、街並をトレースするように、光がさりげなく歩行者をサポートしてくれている。そんな印象を受けました。
また、近代的な建築が多いロッテルダムでは、アパートメントの建物のファサードなどにアクセントとしてのカラーライティングが使われているのをよく目にします。昼間は何ということもないクレーンも、夜になると赤や黄色のカラー照明で照らされていて、角度によっては恐竜のようにも見えるような面白い照らされ方がなされていました。
もうひとつよく目にした光景として印象的だったのが、アパートメントにカーテンが設置されていないということでした。これでは外から室内が丸見えです。一室だけなら、住人の考え方など何か理由があるのだと思ったのですが、全ての部屋です。しかも周りをしばらく歩き回ってみると、カーテンのない部屋が意外とたくさんあることに気付きました。
昼は外が明るく、室内は暗いので、窓で反射した光に遮られて視線は抜けにくいですが、夜はそれが逆転するので、外からの目線がどうしても気になりがちです。私たち日本人の一般的な感覚では、防犯やプライバシーの観点から、夜はカーテンを閉めるものと考えてしまいますが、このロッテルダムではどうやら違うようです。アムステルダムでも同じような光景を目にしたので、意外とオランダの人は周りの目線は気にせずに、開放的に過ごす方が好きなのかもしれませんね。